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相続登記

相続放棄の手続きと期限|実家を相続したくないときの注意点(3か月・費用・放棄後の管理)

更新日 2026年10月1日公的機関の資料をもとに作成

「実家を相続しても使い道がない」「借金があるかもしれない」。そんなときの選択肢が相続放棄です。ただし期限が短く、実家だけを放棄することはできません。家財を片付ける前に、仕組みと注意点を確認しておきましょう。

相続放棄とは

相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)の財産も借金も、一切受け継がないことを家庭裁判所に申し出る手続きです。 民法第938条で、放棄する人は家庭裁判所に「申述」しなければならないと定められています。口約束や、ほかの相続人への書面だけでは相続放棄にはなりません。

裁判所の案内では、相続が始まったとき、相続人は次の3つから選べるとされています。

選び方 内容 手続き
単純承認 土地・建物や預貯金などの権利も、借金などの義務も、すべて受け継ぐ 特別な手続きは不要
相続放棄 権利も義務も一切受け継がない 家庭裁判所に申述(1人でもできる)
限定承認 相続で得た財産の範囲でだけ、借金などを払う 家庭裁判所に申述(相続人全員で行う)

相続放棄のポイントは次の3つです。

  • 放棄した人は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)
  • そのため、実家だけを放棄することはできません。預貯金や株なども相続できなくなります
  • いったん放棄すると、3か月の期間内でも撤回はできません(民法第919条第1項)

限定承認は、借金がどのくらいあるかわからないときに使われる方法です(民法第922条)。ただし、相続人が複数いるときは全員が共同でしなければなりません(民法第923条)。1人でも反対すると使えない点が、相続放棄との大きな違いです。

期限は「知った時から3か月」

相続放棄には期限があります。民法第915条で、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、承認するか放棄するかを決めなければならないとされています。

項目 内容
期限 自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内
数え始め 裁判所のQ&Aでは、亡くなったことと、それによって自分が法律上相続人になったことを知った時とされています
過ぎたら 期限内に放棄も限定承認もしなければ、単純承認したものとみなされます(民法第921条第2号)
延ばしたいとき 家庭裁判所に「期間の伸長」を申し立てられます

親が亡くなった場合、子は通常、亡くなった日に相続人になったことを知るので、その日から3か月と考えておくと安全です。

裁判所のQ&Aでは、例外として、相続財産がまったくないと信じ、そう信じたことに相当な理由があるときなどは、財産の存在を知った時から3か月以内に申述すれば受理されることもある、と説明されています。ただし、これは個別の事情で判断されるものです。期限を過ぎてしまった場合は、家庭裁判所や弁護士・司法書士に相談してください。

期間の伸長の申立て

3か月の間に財産を調べても、放棄するかどうか決められないときは、家庭裁判所が期間を延ばすことができます。

項目 内容
申し立てできる人 利害関係人(相続人を含む)、検察官
申立先 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
費用 収入印紙800円分(相続人1人につき)、連絡用の郵便切手
注意 3か月の期間内に申し立てる必要があります

どのくらい延ばせるかについては、裁判所の一般向けページに決まった日数は書かれていません(未確認)。

手続きの流れと費用

相続放棄は、家庭裁判所に「相続放棄申述書」と添付書類を出して行います。

項目 内容
申述する人 相続人本人(未成年者や成年被後見人の場合は法定代理人)
申述先 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所(自分の住所地ではありません)
費用 収入印紙800円分(申述人1人につき)、連絡用の郵便切手
郵便切手の額 裁判所ごとに異なるため、申述先の家庭裁判所のページで確認
書式 裁判所のサイトに申述書の書式と記入例があります

申述書の記入例を見ると、次のような項目があります。

  • 申述人と被相続人の本籍・住所・氏名、被相続人との関係
  • 相続の開始を知った日(被相続人が亡くなった日、死亡の通知を受けた日、先の順位の人の相続放棄を知った日など)
  • 放棄の理由(生前に贈与を受けている、生活が安定している、遺産が少ない、遺産を分散させたくない、債務超過のため、その他)

提出した後の流れは、おおむね次のとおりです。

段階 内容
1. 提出 申述書と添付書類を家庭裁判所に出す
2. 確認 審理のために必要な場合は、追加書類の提出を求められることがあります
3. 受理 受理されると「受理通知書」が届きます
4. 証明書 必要なら「相続放棄申述受理証明書」を申請します(収入印紙150円分。郵送なら返信用の切手も)

提出後に裁判所から申述人へ「照会書(回答書)」が送られる運用は、専門家の解説でよく紹介されています。ただし、裁判所の全国共通の案内ページでは、照会書の送付について書かれた部分は確認できませんでした(未確認)。裁判所から書類が届いた場合は、書かれた期限までに回答してください。

裁判所のQ&Aでは、受理された後、亡くなった人の財産を管理している場合は相続人に引き継ぐこと、借金の請求を受けている場合は債権者に受理されたことを連絡するのがよい、と案内されています。

必要な書類は被相続人との関係で変わる

申述書のほかに、戸籍などの添付書類が必要です。裁判所の「相続の放棄の申述」ページでは、申述人と被相続人の関係によって、次のように分けられています。

申述人 必要な書類(標準的なもの)
共通 ・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人(放棄する人)の戸籍謄本
配偶者 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
子、または孫・ひ孫など(第1順位) ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・孫・ひ孫などが代わりに相続する場合は、本来の相続人(親など)の死亡の記載のある戸籍謄本
父母・祖父母など(第2順位) ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の子(孫など)で亡くなっている人がいれば、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・自分より下の代の直系尊属で亡くなっている人がいれば(例:祖母が相続人なら父母)、その死亡の記載のある戸籍謄本
兄弟姉妹、おい・めい(第3順位) ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の子(孫など)で亡くなっている人がいれば、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
・おい・めいが代わりに相続する場合は、本来の相続人(兄弟姉妹)の死亡の記載のある戸籍謄本

裁判所の案内には、次の補足もあります。

  • 同じ書類は1通で足ります
  • 同じ被相続人について、先に期間の伸長や相続放棄の手続きがあった場合、そこで出した書類は不要です(第2・第3順位では、先の順位の人が出したものも不要)
  • 申述の前に手に入らない戸籍は、後から追加で出してもかまいません
  • 戸籍の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」を出せる場合があります(申述先の家庭裁判所に確認)

兄弟姉妹が相続人になる場合は、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集める必要があり、時間がかかることがあります。3か月の期限が迫っているときは、戸籍を後から出せることや、期間の伸長の申立てができることを覚えておきましょう。

放棄できなくなる行為に注意

相続放棄を考えているなら、特に気をつけたいのが民法第921条です。次の場合、相続人は単純承認をしたものとみなされます。

号 単純承認とみなされる場合
第1号 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為と、一定期間を超えない賃貸は除く)
第2号 3か月の期間内に、限定承認も相続放棄もしなかったとき
第3号 放棄や限定承認の後でも、相続財産を隠したり、ひそかに使ったり、わざと財産目録に書かなかったりしたとき

実家じまいでは、次のような行為をしがちです。

  • 家財の処分(片付け業者に頼んで捨てる、形見分けをする)
  • 家財や骨董品、車などの売却
  • 実家の売却や解体
  • 親の預金の払い戻しや、そのお金の使用

これらが民法第921条の「処分」に当たるかどうかは、行為の内容や事情によって個別に判断されます。裁判所や法務省の一般向けページで、こうした実家じまいの行為を具体例として「処分に当たる/当たらない」と示したものは、今回の調査では見当たりませんでした。葬儀費用の支払いなどについても、公的機関の一般向け資料で確認できなかったため、この記事では扱いません。

相続放棄をするかもしれないうちは、実家の家財・家・預金に手をつけないのが安全です。雨漏りの応急処置など、財産を守るための「保存行為」は第921条で除かれていますが、どこまでが保存行為かも個別の判断になります。迷ったら、動く前に家庭裁判所や弁護士・司法書士に相談してください。

放棄した後の実家はどうなる?

相続放棄をしても、実家の管理からすぐに離れられるとは限りません。2023年4月1日施行の改正民法で、第940条が次のように見直されました。

項目 内容(民法第940条)
義務が生じる人 放棄の時に、相続財産(実家など)を現に占有している人
義務の内容 自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存する
いつまで 相続人、または相続財産の清算人に引き渡すまで

法務省の説明資料「民法等改正関係(抜粋)」によると、改正前の民法では、放棄した人は相続財産の管理を続けなければならないとされていましたが、義務がいつ生じるのか、どんな内容なのかがはっきりせず、放棄したのに過剰な負担を強いられるケースもあったとされています。改正で、放棄の時に現に占有している財産について、引き渡すまで保存しなければならないことが明記されました。

どのような場合に「現に占有している」に当たるかについて、条文や法務省の説明資料には具体例が示されていません。親と同居していた、実家の鍵を預かって管理していたなど、自分が当てはまるか気になる場合は、放棄の前に弁護士・司法書士に確認してください。

次の順位の人に相続が移る

放棄した人は初めから相続人でなかったことになるため、相続する権利は次の順位の人に移ります。民法の相続の順位は次のとおりです。

順位 相続人 根拠
常に 配偶者(ほかの順位の人と一緒に相続人になる) 民法第890条
第1順位 子(亡くなっていれば孫など) 民法第887条
第2順位 父母・祖父母などの直系尊属(近い世代が先) 民法第889条第1項第1号
第3順位 兄弟姉妹(亡くなっていればおい・めい) 民法第889条第1項第2号・第2項

たとえば、父が亡くなり、母と子2人が相続人の場合を考えます(仮の例です)。

  • 子2人がともに放棄すると、第1順位の人がいなくなります
  • 父の父母がすでに亡くなっていれば、父の兄弟姉妹(子から見るとおじ・おば)が母と一緒に相続人になります
  • おじ・おばも実家を相続したくなければ、それぞれ相続放棄をすることになります

次の順位の人にとっては、「自分が相続人になった」と知った時から3か月の期限が始まります。申述書の記入例にも、相続の開始を知った日として「先順位者の相続放棄を知った日」という選択肢があります。親族の間で知らせ合っておくと、トラブルを防ぎやすくなります。

全員が放棄したら:相続財産清算人

相続人全員が放棄して相続する人がいなくなった場合は、相続人のあることが明らかでないときに当たり、相続財産は法人となります(民法第951条)。家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産清算人を選びます(民法第952条)。

項目 内容(裁判所「相続財産清算人の選任」など)
申し立てできる人 利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)、検察官
申立先 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
費用 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円(家庭裁判所の指示があってから納める)
予納金 相続財産だけでは管理費用(清算人の報酬を含む)が足りない可能性があるとき、申立人に相当額を納めてもらうことがある
清算人の仕事 債権者への支払いなどの清算を行い、残った財産を国庫に帰属させる(民法第959条)

予納金の金額は、裁判所の全国共通ページには書かれておらず、事案ごとに家庭裁判所が判断するものです。公的な目安額は確認できませんでした。

裁判所のQ&Aによると、清算人が選ばれると、相続人を探すための公告が6か月以上の期間を定めて行われます。清算人は必要に応じて家庭裁判所の許可を得て不動産を売却することもあり、残った財産は国庫に引き継がれます。

全員が放棄しても、誰かが申し立てなければ清算人は選ばれません。放棄の時に実家を現に占有していた人は、清算人に引き渡すまで保存義務が続くことになります(民法第940条)。清算人の選任を申し立てるかどうかは、費用の負担も含めて弁護士・司法書士に相談してください。

相続土地国庫帰属制度・生命保険金との関係

相続土地国庫帰属制度との違い

「国に引き取ってもらう」方法として、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度があります。相続放棄とは仕組みがまったく違います。

比べる点 相続放棄 相続土地国庫帰属制度
手放すもの 財産も借金もすべて 土地だけ
前提 相続する前(3か月以内) 相続などで土地を取得した後
建物 関係なく放棄できる 建物がある土地は申請できない
手続き先 家庭裁判所 土地がある都道府県の法務局(本局)
費用 収入印紙800円分と郵便切手 審査手数料 土地1筆14,000円と、承認後の負担金

国庫帰属制度では、却下や不承認になっても審査手数料は返ってきません。負担金は、土地の種目ごとに10年分の標準的な管理費用を考慮して算定されます。実家の土地で使う場合は、先に建物の解体が必要です。詳しくは田舎の土地を手放す方法で紹介しています。

生命保険金の扱い

国税庁のタックスアンサーNo.4114では、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続などで取得したとみなされて相続税の対象になるとされています。そのうえで、相続人が受け取った保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますが、相続を放棄した人が受け取った保険金には非課税枠が使えないと案内されています。

一方、死亡保険金が民法上、相続財産に含まれるかどうか(受取人の固有の財産かどうか)について、今回確認した国税庁・裁判所・法務省の一般向け資料には説明が見当たりませんでした。保険金を受け取れるかどうかは保険会社に、相続税の扱いは税務署に確認してください。

相談先

相談したいこと 相談先
申述の方法、郵便切手の額、書類の書き方 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
自分の行為が「処分」に当たるか、保存義務の範囲、期限を過ぎた場合 弁護士・司法書士
費用が心配なとき 法テラス(日本司法支援センター)
死亡保険金の相続税 税務署
相続した土地の国庫帰属 土地がある都道府県の法務局

家庭裁判所は手続きの方法を案内してくれますが、「この場合は放棄したほうがいいか」といった個別の判断は、弁護士や司法書士に相談するのが一般的です。相続した場合に必要になる名義変更については、相続登記の義務化はいつから?、全体の段取りは実家じまいの手順を参考にしてください。

よくある質問

実家だけを相続放棄して、預貯金は相続できますか?

できません。相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。実家も預貯金も借金も、すべて相続しないことになります。実家だけを手放したい場合は、相続したうえで売却や国庫帰属制度などを検討することになります。

3か月の期限に間に合わない場合はどうすればいいですか?

期限内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます。相続財産を調べても、放棄するかどうか決められない場合に、家庭裁判所が期間を延ばせる手続きです。費用は相続人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。

相続放棄をすれば、実家の管理から完全に解放されますか?

すぐに解放されるとは限りません。2023年4月1日施行の改正民法第940条では、放棄の時に実家を現に占有している人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意をもって保存しなければならないとされています。

相続放棄をしても死亡保険金は受け取れますか?

国税庁は、相続を放棄した人が受け取った死亡保険金には、相続人が使える非課税枠(500万円×法定相続人の数)が適用されないと案内しています。受け取れるかどうかは保険契約の内容によるため、保険会社に確認してください。

出典

2026年10月1日時点の情報です。制度は変わることがあるため、手続きの前に各窓口で確認してください。調べ方は調査方法にまとめています。