1. まず契約書で確かめる4つのこと
| 確かめること | なぜ大事か |
|---|---|
| 賃借権か地上権か | 借地権には「土地の賃借権」と「地上権」があります(借地借家法第2条)。地主の承諾が必要になるのは、賃借権を譲り渡す場合です(民法第612条)。民法の地上権の規定には、譲渡の承諾の定めはなく、国税庁も地上権は「地主の承諾なく譲渡、転貸ができる」と説明しています。国税庁の資料でも地上権の設定はごくわずかといわれているので、多くの借地は賃借権です。契約書で確かめてください |
| いつ始まった借地か | 1992年8月1日より前に始まった借地は、契約の更新などに旧借地法のルールが残ります(借地借家法附則) |
| 定期借地権かどうか | 定期借地権は更新がなく、期間が終わると原則として更地にして返します(国土交通省の解説)。残りの期間で売りやすさが大きく変わります |
| 建て替え・増改築の制限 | 買主が建て替えたいとき、契約で増改築が制限されていると、地主の承諾か裁判所の許可が必要になります(第17条) |
あわせて、建物の相続登記を済ませておきましょう。借地権は、土地の上に借地人名義で登記された建物があれば、地主が土地を売っても新しい所有者に主張できます(第10条)。
2. 相続したとき
- 借地権は、親の財産として相続の対象になります(民法第896条)。相続人が複数いれば、遺産分割までは相続人の共有です(第898条)
- 民法第612条で地主の承諾が必要とされているのは、借地権を譲り渡す・転貸する場合です。相続については条文に定めがありません
- 相続のときの名義変更料の支払いを義務づける規定は、借地借家法にも民法にもありません
地主には相続したことを伝え、地代の支払い先、契約の期間、更新の時期を確認しておくと、売るときの話し合いがスムーズになります。
3. 売り方は4つ
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 地主に買い取ってもらう | 地主が建物と借地権を買い、土地の完全な所有者に戻る | 地主に買い取る義務はない。価格は話し合いで決める |
| 第三者に売る | 地主の承諾を得て、建物と借地権を買主に売る | 承諾がなければ、裁判所の許可(下の4.)を使う |
| 地主と一緒に売る | 地主の土地(底地)と借地権を合わせて、土地付きの家として売る | 地主の同意と、代金の分け方の合意が必要 |
| 期間満了のときに買い取ってもらう | 期間が満了して更新がないとき、地主に建物を時価で買い取るよう請求できる(第13条) | 定期借地権では、この請求をしない特約ができる |
第三者が建物を買ったのに地主が借地権の譲渡を承諾しないときは、その第三者が地主に建物を時価で買い取るよう請求できる規定もあります(第14条)。
4. 地主が承諾しないとき:裁判所の許可
建物を売る相手が借地権を引き継いでも地主に不利になるおそれがないのに、地主が承諾しないときは、地方裁判所に、地主の承諾に代わる許可を申し立てられます(借地借家法第19条)。これを「借地非訟事件」といいます。
- 売る前に申し立てる:許可は「譲渡しようとする場合」に求めるもので、許可の裁判の効力が生じてから6か月以内に売らないと、許可は効力を失います(第59条)
- 地主への支払いが命じられることがある:裁判所は許可と引き換えに、地主への金銭の支払い(財産上の給付)や借地条件の変更を命じられます。東京地方裁判所は、この金額が一般に「名義変更料」などと呼ばれていると説明しています
- 介入権:申立てがあると、地主は裁判所が定めた期間内に限り、自分で建物と借地権を買い取る申立てができます。その場合、原則として地主が裁判所の定めた価格で買い受けます(第19条第3項)
- 鑑定委員会:裁判所は原則として、弁護士・不動産鑑定士などでつくる鑑定委員会の意見を聴きます。東京地方裁判所によると、鑑定委員の費用は国が負担します
- 代理人は弁護士に限られます。東京地方裁判所の説明では、多くの事件はおおむね1年以内に終わっています
申立手数料の例
手数料は、借地の価額を基礎に法律の表で決まります(民事訴訟費用等に関する法律 別表第一)。東京地方裁判所は当分の間、土地の固定資産評価額の2分の1を基礎にするとしています。
例:土地の固定資産評価額が2,000万円の借地で、売却の許可を申し立てる場合、基礎の額は1,000万円で、手数料は2万円(収入印紙)になります。このほか、東京地方裁判所では郵便切手6,000円分(相手方1名の場合)を納めます。
この金額は、法律の表から当サイトが計算した例です。実際の金額は申立先の裁判所で確認してください。
5. 更新料・承諾料・地代
- 更新料・承諾料・名義変更料・権利金の支払いを義務づける規定は、借地借家法にも民法にもありません
- 契約書にこれらの定めがある場合の扱いは、契約の内容や事情によって変わります。求められた金額に納得できないときは、弁護士に相談してください
- 地代は、税金や土地の価格の変動、近くの地代と比べて不相当になったときは、増額・減額を請求できます。話し合いがつかない間は、相当と思う額を払えばよく、後で過不足があれば年1割の利息を付けて精算します(第11条)
6. 税金
| 内容 | ポイント |
|---|---|
| 借地権を売ったとき | 譲渡所得として課税されます。所有期間は親が取得した日から数え、5年を超えると長期譲渡所得になります(No.3202) |
| 地主に払った名義書換料 | 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために払った名義書換料などは、譲渡費用になります(No.3255) |
| 過去に払った更新料 | 借地権を売ったときの取得費に含める計算が、国税庁の質疑応答で示されています |
| 取得費が分からない | 売った金額の5%を取得費にできます |
| 空き家の3,000万円特例 | 国税庁の説明では、対象の敷地は「土地またはその土地の上に存する権利」とされています。借地の家で使えるかは、税務署に確認してください |
| 相続税の評価 | 借地権の価額は、更地としての価額に借地権割合(路線価図のA=90%〜G=30%)を掛けて求めます(No.4611)。実際の売値とは別のものです |
7. 国に引き取ってもらう制度は使えない
相続土地国庫帰属制度を申請できるのは、相続などで土地の所有権を取得した人だけです(法第2条第1項)。借地人は申請できません。また、借地権などが設定された土地は申請できないため(第2条第3項)、地主の側も、借地のままでは使えません。
借地非訟の手続き、地主との交渉、契約書の更新料の定めの扱いなどは、弁護士に相談してください。この記事は一般的な仕組みの説明で、個別の事情に当てはまるかを保証するものではありません。
よくある質問
借地の上の実家を相続しました。地主の承諾は必要ですか?
民法第612条で賃貸人の承諾が必要とされているのは、賃借権を譲り渡す・転貸する場合で、相続については条文に定めがありません。相続は承諾がいらないと説明した公的な資料は見つからなかったので、地主には相続したことを伝え、地代の支払い先や契約の内容を確認しておきましょう。
地主から名義変更料や更新料を求められました。払う義務はありますか?
借地借家法にも民法にも、更新料・承諾料・名義変更料の支払いを義務づける規定はありません。ただし、契約書に定めがある場合の扱いや、裁判所が売却の許可と引き換えに地主への支払いを命じる場合(財産上の給付)があります。契約書を確認し、必要に応じて弁護士に相談してください。
地主が売却を承諾してくれません。
建物を売る相手が借地権を引き継いでも地主に不利になるおそれがないのに地主が承諾しないときは、地方裁判所に、地主の承諾に代わる許可を申し立てられます(借地借家法第19条)。その手続きの中で、地主が自分で建物と借地権を買い取る申立て(介入権)をすることもあります。
借地権を売ったら、地主に払った承諾料は税金の計算で差し引けますか?
国税庁は、借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料などを、譲渡費用になるものとして挙げています。また、借地人が過去に払った更新料は、借地権を売ったときの取得費に含める計算が示されています。
あわせて読みたい
出典
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第2条〜第14条・第17条〜第22条・第41条・第59条・附則)
- e-Gov法令検索「民法」(第612条・第896条・第898条)
- 東京地方裁判所 民事第22部「借地非訟とは」
- 東京地方裁判所 民事第22部「借地非訟事件手続の流れ」
- 東京地方裁判所 民事第22部「費用」
- e-Gov法令検索「民事訴訟費用等に関する法律」(別表第一 13項)
- 国土交通省「定期借地権の解説」
- 国税庁 タックスアンサーNo.4611「借地権の評価」
- 国税庁 タックスアンサーNo.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
- 国税庁 タックスアンサーNo.3255「譲渡費用となるもの」
- 国税庁 質疑応答事例「借地権の譲渡所得の計算」
- 国税庁 タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(第1条・第2条)
- 国税庁 質疑応答事例(印紙税)「地上権、土地の賃借権、使用貸借権の区分」
2026年10月7日時点の情報です。制度は変わることがあるため、手続きの前に各窓口で確認してください。調べ方は調査方法にまとめています。