まずやること:農業委員会への届出と相続登記
田や畑を相続したら、手放すかどうかを決める前に、次の2つの手続きが必要です。どちらも法律で決められた義務で、別々の窓口に出します。
| 手続き | 窓口 | 期限 | 怠った場合 |
|---|---|---|---|
| 農地の権利取得の届出(農地法第3条の3) | 農地がある市町村の農業委員会 | 「遅滞なく」=権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内 | 10万円以下の過料(農地法第69条) |
| 相続登記(不動産登記法第76条の2) | 農地がある地域の法務局 | 取得を知った日から3年以内(2024年4月1日より前の相続は2027年3月31日まで) | 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料 |
届出の「おおむね10か月」は、農地法そのものではなく、農林水産省の「農地法関係事務に係る処理基準」に書かれている目安です。農林水産省のチラシでは「相続発生日からおおむね10か月以内」と案内されています。
届出書には、農地の所在・地番・面積、相続した日、今の耕作の状況などを書きます。農林水産省の様式例には「農業委員会によるあっせん等の希望の有無」という欄があります。売りたい・貸したいと考えているなら、ここで希望を伝えておくと、農業委員会に相談するきっかけになります。
手放し方の比較
農地の手放し方は、大きく5つです。どれも農地法などのルールがかかるので、宅地より手間がかかります。
| 方法 | 主な手続き・相手 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 農地のまま売る | 農業委員会の許可(第3条) | 近くに農地を広げたい農家がいる | 買い手は耕作する人に限られる |
| 2. 貸す | 農地バンク(農地中間管理機構)、または第3条の許可 | 所有は続けたいが耕作できない | 条件が悪い農地は借りてもらえないことがある |
| 3. 転用して売る | 都道府県知事等の許可(第5条)、市街化区域内は届出 | 住宅地や駐車場の需要がある場所 | 農用地区域内などは原則許可されない |
| 4. 国に引き取ってもらう | 法務局(相続土地国庫帰属制度) | 買い手も借り手も見つからない | 手数料と負担金がかかり、条件もある |
| 5. 相続放棄 | 家庭裁判所 | 農地を含めて一切相続したくない | 3か月以内。ほかの財産も相続できない |
農地の価格や賃料の相場について、全国の公的な平均はありません。地域差が大きいので、農業委員会や農地バンクに地元の事情を聞くのが近道です。
1. 農地のまま売る:農地法第3条の許可
農地を農地のまま売る(または貸す)には、農地のある市町村の農業委員会の許可が必要です(農地法第3条)。農林水産省は「この許可を受けていない売買等は無効」と説明しています。
許可の主な基準は次のとおりです(第3条第2項)。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| すべて効率的に利用 | 買い手(とその世帯員等)が、機械・人手・技術などからみて、取得後の農地のすべてを効率的に耕作できること |
| 常時従事 | 買い手が必要な農作業に常時従事すること(農林水産省の解説資料では、年間150日以上が原則) |
| 周辺への支障がない | 周辺の農地利用や地域計画の達成に支障がないこと |
| 法人の場合 | 農地を所有できるのは原則として農地所有適格法人 |
以前は「取得後の経営面積が原則50アール以上」という下限面積要件もありました。これは改正法により廃止され、2023年4月1日から、面積の小さい人でも許可を受けられるようになっています(農林水産省「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律について」)。
買い手が見つかりやすいのは、隣や近くで耕作している農家です。自分で探すのが難しい場合は、届出のときに農業委員会へあっせんを希望しておきましょう。
2. 貸す:農地バンクと地域計画
売らずに貸す方法もあります。窓口の中心になるのが、都道府県ごとに1つ指定されている農地中間管理機構(農地バンク)です。
地域計画と農地バンク
2023年4月施行の改正農業経営基盤強化促進法で、市町村は地域の話合いをもとに「地域計画」を作ることになりました。地域計画には、10年後に誰がどの農地を使うかを示した「目標地図」が入ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 策定の期限 | 2025年3月末まで |
| 策定状況(2025年4月末時点) | 1,615市町村、18,894地区 |
| 区域内の農用地等 | 422万ha、うち将来の受け手が決まっていない農地が134万ha(約3割) |
| 貸し借りの方法 | 地域計画の実現に向けた貸し借りは、2025年4月から原則として農地バンク経由に一本化(第3条の許可による貸し借りも引き続き可能) |
| 市街化区域 | 地域計画は作られない |
農地バンクに貸すメリット(農林水産省の案内)
- 賃料は農地バンクから約束の期日までに振り込まれる
- 貸付期間が終われば農地は返ってくる(再契約もできる)
- 所有者に相続があっても、賃貸借の契約は相続人に引き継がれる
- 地域計画ごとに所有する全農地を同じ年に新たに10年以上貸すと、その農地の固定資産税が3年間2分の1になる
- 農地バンクに売り渡した場合(農用地利用集積等促進計画による)は、譲渡所得の800万円特別控除の対象になる
ただし、農地バンクはどんな農地でも借りるわけではありません。地域計画の区域外の農地や、営農条件が悪い農地は借り受けられない場合があると、農林水産省のQ&Aに書かれています。
3. 転用して売る:農地法第4条・第5条と農地の区分
住宅や駐車場、資材置き場など、農地以外に使うことを転用といいます。自分の農地でも自由には転用できません。
| 場合 | 条文 | 手続き |
|---|---|---|
| 所有者が自分で転用する | 第4条 | 都道府県知事等の許可 |
| 転用する目的で売る・貸す | 第5条 | 売主と買主が一緒に都道府県知事等の許可を受ける |
| 市街化区域内の農地 | 第4条第1項第7号、第5条第1項第6号 | あらかじめ農業委員会に届出すれば許可は不要 |
申請書は農業委員会を通して提出します。「都道府県知事等」とは、都道府県知事か、農林水産大臣が指定した市町村(指定市町村)の長です。
転用できるかは「農地の区分」で決まる
農林水産省の「農地転用許可制度の概要」では、農地を次のように区分しています。
| 区分 | どんな農地か | 転用の方針 |
|---|---|---|
| 農用地区域内農地 | 市町村の農業振興地域整備計画で農用地区域とされた農地 | 原則不許可 |
| 甲種農地 | 市街化調整区域内の特に良好な農地(基盤整備後8年以内など) | 原則不許可 |
| 第1種農地 | 10ha以上のまとまった農地、基盤整備の対象農地など | 原則不許可 |
| 第2種農地 | 市街地として発展する可能性のある区域の農地など | 第3種農地に立地できない場合などに許可 |
| 第3種農地 | 市街地の区域内の農地など | 原則許可 |
転用の許可には、ほかにも「転用が確実に行われること」「周辺の農地に被害を出さないこと」などの基準があります。具体的な転用目的がない、資産として持つだけの取得は認められません。
田舎の農地の多くは、農用地区域内農地や第1種農地に当たる可能性があります。その場合、転用して宅地として売る方法は原則として使えません。自分の農地がどの区分かは、農業委員会に確認してください。
4. 国に引き取ってもらう:相続土地国庫帰属制度
相続した土地を国に引き取ってもらう制度です(2023年4月27日開始)。田・畑も対象で、窓口は法務局です。
申請できない・承認されない主な例
建物や、管理を妨げる工作物・樹木がある土地、境界がはっきりしない土地、担保権がある土地などは対象外です。農林水産省は、農地に特有の例として次を挙げています。
- 農地バンクの農地中間管理権が設定されている(貸している)
- 土地改良区の賦課金が課されている
手数料と負担金
| 費用 | 金額 |
|---|---|
| 審査手数料 | 1筆14,000円(却下・不承認でも返ってこない) |
| 負担金(田・畑) | 原則20万円(面積にかかわらず) |
| 負担金(面積で計算する田・畑) | 市街化区域・用途地域内、農用地区域内、土地改良事業等の施行区域内の農地 |
面積で計算する田・畑の負担金は、政令(施行令第5条第1項第2号)で次のように決まっています。
| 面積 | 負担金の計算 |
|---|---|
| 250㎡以下 | 面積×1,210円+208,000円 |
| 250㎡超500㎡以下 | 面積×850円+298,000円 |
| 500㎡超1,000㎡以下 | 面積×810円+318,000円 |
| 1,000㎡超2,000㎡以下 | 面積×740円+388,000円 |
| 2,000㎡超4,000㎡以下 | 面積×650円+568,000円 |
| 4,000㎡超 | 面積×640円+608,000円 |
仮の数字で計算すると、農用地区域内の田が500㎡なら72万3,000円、1,000㎡なら112万8,000円、3,000㎡なら251万8,000円です(千円未満は切り捨て)。隣り合う同じ区分の土地は、申し出れば1つの土地として計算できます。
田・畑の申請件数
法務省の統計(2026年8月31日現在・速報値)では、地目別の申請件数で田・畑がいちばん多くなっています。
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| 申請件数(総数) | 5,997件 |
| うち田・畑 | 2,335件(約39%) |
| うち宅地 | 2,091件 |
| うち山林 | 902件 |
| 帰属件数(総数) | 3,119件 |
| うち農用地 | 989件 |
帰属件数は「種目別」の集計で、申請の「地目別」とは分け方が違うため、田・畑の申請のうち何件が帰属したかという割合は、この統計からは分かりません。
5. 相続放棄
農地を含め、亡くなった人の財産を一切相続しない方法です。
- 期限は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内(家庭裁判所に期間の延長を申し立てることもできる)
- 費用は申述人1人につき収入印紙800円分と郵便切手
- 放棄した人は初めから相続人でなかったとみなされるため、農地だけを放棄することはできない
- 放棄の時に農地を現に占有している場合は、次の相続人などに引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する義務がある(民法第940条)
放置するとどうなる?遊休農地の措置と固定資産税
手放せないまま耕作しないでいると、農地法の「遊休農地に関する措置」の対象になることがあります。
| 段階 | 内容(農地法の条文) |
|---|---|
| 利用状況調査 | 農業委員会が毎年1回、区域内の農地の利用状況を調べる(第30条) |
| 利用意向調査 | 耕作されておらず今後も見込みがない農地などの所有者に、自分で耕作するか、農地バンクに貸すかなどの意向を聞く(第32条)。耕作者の死亡などで遊休農地になるおそれが高い農地も対象(第33条) |
| 協議の勧告 | 意向どおりに進まない、意向を示さないまま6か月がたった、などの場合、農地バンクと協議するよう勧告(第36条) |
| 裁定 | 協議がまとまらないと、都道府県知事の裁定で農地バンクが利用権を取得することがある(第37条〜第39条) |
固定資産税の課税強化
農地の固定資産税は、通常、売買価格に0.55を掛けた額で評価されます。農業振興地域内の遊休農地で、上の「協議の勧告」を受けた場合は、0.55を掛けないため、評価額が結果的に約1.8倍になります(2017年度から)。
- 利用意向調査で農地バンクに貸す意思を示していれば、バンク側の事情で貸付けが進んでいなくても勧告は行われない
- 森林のようになり、農業委員会が「非農地」と判断した土地も勧告の対象外
- 遊休農地が解消されたり、農地バンクが借り入れたりして勧告が撤回されると、翌年度以降の課税強化は解除される
- 適用実績は、2025年1月1日時点で全国427件・67ha
なお、同じ市町村内で持っている土地の課税標準額の合計が30万円未満なら、原則として固定資産税はかかりません(地方税法第351条の免税点)。
相続税の納税猶予を受けている・受けたい場合
農業を続ける相続人(農業相続人)が農地を相続した場合、一定の要件のもとで、相続税の一部の納税が猶予される特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4147)。
- 猶予されるのは、農地の価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税額
- 対象は、相続人が農業を続ける場合か、農地バンクへの貸付けなどの「特定貸付け等」をする場合
- 猶予税額は、農業相続人が亡くなった場合などに免除される
手放すことを考えるうえで大事なのは、猶予を受けた農地を売ったり転用したりすると、猶予が打ち切られる点です。農林水産省の資料では、譲渡・貸付け・転用・耕作放棄をした部分の猶予税額に利子税を加えて納めることになり、その面積が猶予を受けた農地の20%を超えると、猶予税額の全部を納めなければならないとされています。農地バンクを通じた貸借であれば、猶予は続きます。
納税猶予を受けている農地を手放す前に、必ず税務署や税理士に確認してください。猶予の打ち切りで思わぬ税額が生じることがあります。
相談先
| 相談したいこと | 窓口 |
|---|---|
| 相続の届出、売買・貸借の許可、農地の区分、転用 | 農地がある市町村の農業委員会 |
| 農地バンクへの貸付け・売渡し | 都道府県の農地中間管理機構(農地バンク)、市町村の農政担当課 |
| 地域計画の内容 | 市町村の農政担当課 |
| 相続登記、国庫帰属制度 | 農地がある地域の法務局 |
| 相続放棄 | 亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 相続税、納税猶予 | 税務署 |
農業委員会ごとの届出様式の置き場所やホームページは、農林水産省の「農地相続ポータル」に一覧(2026年4月1日時点)が載っています。宅地や山林もあわせて相続した場合は、田舎の土地を手放す方法や相続した山林の手放し方も参考にしてください。
よくある質問
農地を相続したら、農業委員会の許可が必要ですか?
相続(遺産分割を含む)で農地を取得するのに許可はいりません。その代わり、農地法第3条の3により、農地のある市町村の農業委員会への届出が必要です。期限は「遅滞なく」で、農林水産省の処理基準では権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内とされています。届出をしない、またはうその届出をすると10万円以下の過料の対象になります。
農業をしていない人に田んぼを売ることはできますか?
農地のまま売る場合は、農業委員会の許可(農地法第3条)が必要で、買い手は取得後に農地のすべてを効率的に耕作し、農作業に常時従事することなどが求められます。農業をしない人が農地のまま買うことは原則できません。住宅や駐車場などにする目的なら、転用の許可(第5条)を受けて売る方法になります。
相続した畑を国に引き取ってもらうといくらかかりますか?
審査手数料が1筆14,000円、承認されたら負担金がかかります。田・畑の負担金は原則20万円ですが、市街化区域・用途地域内、農用地区域内、土地改良事業等の施行区域内の農地は面積で計算します(例:1,000㎡なら112万8,000円)。
耕作しないで放っておくと、固定資産税は上がりますか?
放っておくだけでは上がりません。農業振興地域内の遊休農地で、農業委員会から農地バンクと協議するよう勧告を受けると、翌年度から評価額が通常の農地の約1.8倍になります。令和7年1月1日時点の適用は全国427件・67haです。
あわせて読みたい
出典
- e-Gov法令検索「農地法」(昭和27年法律第229号)
- e-Gov法令検索「農地法施行規則」
- 農林水産省「農地相続ポータル」
- 農林水産省「農地を相続したときは届出が必要です!」(チラシ)
- 農林水産省「農地法関係事務に係る処理基準について」
- 農林水産省「農地の権利を取得するための手続き」
- 農林水産省「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律について」(令和5年8月)
- 農林水産省「地域計画」
- 農林水産省「地域計画の策定状況(令和7年4月末時点)」
- 農林水産省「農地中間管理機構」
- 農林水産省「農地中間管理機構に関する質問」
- 農林水産省「農地バンク活用メリット」
- 農林水産省「農地転用許可制度について」
- 農林水産省「農地転用許可制度の概要」
- 農林水産省「遊休農地対策について」
- 農林水産省「遊休農地の課税の強化」
- 農林水産省「遊休農地の課税強化の適用実績(令和7年1月1日時点)」
- 農林水産省「農地を相続した場合の課税の特例(相続税納税猶予制度)」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 国税庁 タックスアンサーNo.4147「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」
2026年10月1日時点の情報です。制度は変わることがあるため、手続きの前に各窓口で確認してください。調べ方は調査方法にまとめています。